生的過干渉

僕の劣情、散文、君への過干渉。

夜遊

前章
殺人鬼は雨と踊る。
しっとりワルツを、重ねるようなビヴラートに乗せて。
僕らは知らない、雨の匂いが何で出来ているか。
土と静かと、ばらばらになった血の匂い。
無意識下に、僕らは気付いている。
心地の良いその音にかき消される綺麗な悲鳴を。

僕の殺人鬼は、酷く殺したがりで、殺されたがりであった。
ユカのところの殺人鬼はそうではないけれど。
此の世のどこかの螺子がおかしくなって、僕らには殺人鬼が要る。
あと世界の誰が殺人鬼を持っているかは分からないけれど、現在知っているのは僕を含む3人だけだ。
僕らが殺人鬼と"踊っている"ことを知ってるのは、僕らだけ、つまりそういう点で僕らは運命共同体のようなものになっている。
「ネエ、膳(ゼン)くん。俺、そろそろ踊らないと死んじゃうよ」
ベッドの上で腹にナイフを突き立て、強請ってくるのは僕の殺人鬼だ。
「ベッドの上で自傷するなって言ったろ」
昨晩買い直したばかりのシーツはぐずぐずの血で塗れている。
「ただでさえ、芦ケ谷がきてから血なまぐさいんだ」
それでも殺人鬼は素直にベッドから降りてくれない。
僕の快楽主義な殺人鬼の名前を芦ケ谷臨(アシガヤ ノゾム)という。
奴等は死なない、殺人をやめない限り、生き続けてしまう。
正真正銘ホンモノの殺人鬼だ。
ホンモノがこの世界にどれだけいて、どのように生きてるのか、芦ケ谷は語りたがらない。
そもそも、気がついた時には息をするように側にいて、僕の目の前でスプラッタの山を築いてきた。
同じクラスのキシさん、1個上のユカ、僕。
全員常識から一線外れ、価値観をズラされている。
そりゃそうだ、まともな常識では彼らは生きづらい。
とどのつまり僕らは、殺人鬼の生きやすい環境のための酸素ポンプのようなものだ。
「自分殺してるくらいじゃ…ンはあ…もう、耐えらんないんッだけど…」
流れ出る血が僕の靴を汚く濡らす。
さっきまでの理性が少しずつ弾け飛び、芦ケ谷の目は殺意に満ちる。
震えるような声に嗚咽が混じり、内臓を撒き散らして泣いていた。
「もういいよ。そこにいるひと殺しても」
血で汚れた人差し指で窓から下を指す。
見たところ4人はいる。
会社帰りと見られる若い女3人と男1人。
夕陽が僕の部屋を四角く照らす。
談笑が静かを汚染していく。
汚い肉塊に近付き、小指に口付け"許可"をする。
見る見るうちに、綺麗な男が出来上がった。
傷一つない殺人鬼の完成だ。
「ン、ありがとう膳くん。」
僕の小指がズキリと痛む、内蔵ぶちまけるよか大したことのない痛みだ。
酸素ボンベの僕が口付けないと、不死身にもなれないような殺人鬼。
窓をガラリと開け、窓枠を壊しそうな勢いで勢いよく落ちる。
女が叫ぶ、ヒステリックな音。
しなやかな肢体は地面にふわりと着地し、通行人の身体に死を教える。
早く我慢出来ないように見えたと思うと、ゆっくり味わうように。
さながらその十字路は檻だ。
一度入ると出られない、殺人鬼の為の狩場だ。
そこで芦ケ谷はビートを刻む、多分この音は最近流行りのJ-POPだ。
女の塊を捉え、右手のナイフで刈り取る。
悲鳴が耳に心地いい。
がら空きの左手で傷口に手を入れ、ぐちゅりと中身を引きずり出す。
腰を引き摺り逃げようとする男が、小汚い体液を撒き散らし喚いている。
コツコツと芦ケ谷の履いてる革靴がきっちりサビを刻む。
両腕を目一杯開いて、肉体を啄むように、皮をはぐように、ぐちゃりぐちゃりと戦利品を解体していく。
「今日は4人か」
人の死をあっさりと計上できる僕も、相当おかしいのだろう。
丁度一番分終わる頃、芦ケ谷は舐めるように下から僕を見た。
「ホラ綺麗だろ」
「お前も下の肉もすごく汚いよ」
芦ケ谷の服には一片の乱れもない。
血で汚れていることを除けば