貴方様の使いの者が婚約を告げに来たのは、そんな満ち足りた日々の中です。その日はいつもより一層晴れやかな外套を羽織った貴方様のお父上様が珍しく昼間にいそいそと、診療所を閉じていらっしゃいました。昼なのに、夜のような空気感。わたくしは襖をぴっちりと閉めて、本を読んでおりました。座敷牢のようなそこを、慌ただしく人々が行ったり来たりしているのです。ざわめきと、忙しさの中で女中達の甲高い声がわたくしの耳に刺さりました。
「お嬢さまの結婚がこんなに急に決まるなんて、あの晴れ姿。なんて美しく妖艶なんでしょう。」
「お相手はあのお医者様の息子よ、見初められたのね」
凛とした"私"の声が広い廊下の中で喜色を孕んでおりました。
「図書館でお会いした時から、運命だと思っていましたの。こんなふうに結ばれて、私とあの御方はやはり運命で繋がっていたのね」
地獄はわたくしの身体を、まるで蛇のように這い回り、締め上げて声を上げる様を見て愉悦に浸るので御座います。
昼と夜が逆転、完成してしまったのです。