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生的過干渉

僕の劣情、散文、君への過干渉。

Fall in Love #短編小説

訥々と話すあの子の口元に、未だ見たこともない虫が死骸となって張り付いている。
なんて名前か知りもしないが、少し乾いたその羽根が彼女の飛んだ唾で少し潤いを取り戻す。
彼女はそれを、まるでオムライスのケチャップを口の端につけた子供のようにぺろりと舐めては、何事もないようにまた話を続けた。
それは、彼女がなぜ死んだかという内容で、具体的な数字に表すと、実に12回も同じ話を同じ口調で話している。
僕の生きてきた中で、幽霊などという不可思議な存在に出くわしたことが一度もない為に、死んだこの女に出会った時に、僕は何て声を返すべきか、ものの数秒考え込んでしまったのである。
そんな僕に、意気揚々と高らかに彼女は宣言した。
「私は幽霊でもなければ人間でもない、もっと言うと死んでいるのはあなたの方よ」と。
僕の記憶が何者かによって書き換えられたりしていなければ、彼女は3日前マンションの9階から飛び降り自殺を行いスプラッターになったはずである。
しかし、学校帰りにマンションの前を通りがかると、数え切れないほどうず高く積まれた花の横に、含み笑いを浮かべながらひっそりと立っていたのだ。
おしゃべりな彼女は話をやめない。
「こんなに花を置かれると、虫が湧いて湧いて、仕様がないわ。縁起が悪いわよね、まるで私が死んだみたい。死んだとか生きているとか、そんなのどうでもいいじゃない。私はここにいるわ、ねえ、そうでしょう。」
ギラついた双眸が僕のことをゆっくりと舐める。
「じゃああなたは何なんですか。」
最大にして最強の防御は攻めだ。今、僕には彼女に質問をし返す一握の勇気があった。
「ばかね。だからあなたはここで死ぬのよ。」
花や土の柔らかな匂いがする。
上から降る彼女と、通りすがりの僕。
僕の頭に降るのは、彼女の血肉と僕の肉。
混ざり合った汚く浅黒い液体が排水溝に落ちる。
奥に見えたのは、何も知らずに歩く僕。
彼女がまた、降ってくる。