生的過干渉

僕の劣情、散文、君への過干渉。

touch me #短編小説


2年前の夏。
僕のすきな人は何者かとバトンタッチをした。
そうして今も僕の背中にへばりついている。

「オハヨウ。怖いゆめを見たの。あなたがいなくなるゆめ。」

淡々と語る彼女の皮を被ったコイツが、僕の妄想の産物だとしたら、僕は今すぐ彼女を押し倒してその内臓を捻り潰してやれるというのに。

「きみはあのひとじゃないでしょう。早くあのひとを返してよ。」
震える声は心許なく、じんわり粘る汗が口の端に溜まる。

「だめよ、できないわ。2年前にあなたがこの女と代わった私と結ばれてしまったから、私はこの薄汚い肉の塊から出られなくなってしまったのよ。」
首を大げさに振りながらコイツは僕の気をひくように、彼女の柔らかい両腕で僕の身体を抱きしめた。
「全く以て心外だ。君を覆っている皮膚も、中を駆け巡る血液の一滴たりとも全て、僕のすきなひとなんだ。早く出ていってよ。」
焦る僕を宥めるように、彼女の体が僕を包む。その感覚は、まるで柔らかく甘い毒が僕の身体をゆっくりと蝕んでいくのに似ていた。
「かわいそうな人。私が出て行けばあなたはこの女と結ばれることはないのに。」
唇を耳に寄せて、この狭いワンルームの中を彼女の形をしたナニカと僕が満ちる。
僕の中の8割を占めていたはずの理性と、彼女に対する宗教的なまでの愛は、このナニカと結ばれてからとっくに崩落していた。
僕は彼女を愛した建前を守るために、このやりとりを毎日毎日、確かめるように一つずつ行う。
そうした儀式じみた行為の後にコイツの身体に触れると、僕が4年半抱いていた彼女への愛は、何とも惨めで拙いものだったかを思い知らされる。
僕のずっとすきな人は他の得体も知れぬ男との結婚を選び、そうしてナニカに乗っ取られ、いま僕と盲目的な世界に浸かっている。
ナニカは宇宙人なのか、未来人なのか、もっとSFじみたナニカなのかは判らない。

彼女を探すあの男の声が耳鳴りに混じり聞こえる内は、僕は冷静にこの質問をコイツにできる。
だけどもう無理だ。コイツが彼女じゃなく、彼女を殺した張本人だということは頭のどこかでわかっている。嫌という程理解している。違う、もう、そんなことはどうでもいいのだ。

「ねえ、私を彼女だと認めて。そうしたら私、この女として一生を生きるわ。あなたのために、全てを捨ててもいいのよ。私はあなたを選び、あなたのことを愛するのよ。」

彼女の毒は、最早身体中に回っていた。
幸福の蜜とも言えるソレは、僕の芯までをも蕩かしきっている。
「僕は君を、4年半前からずっと愛している。」
柔らかに口付ける唇から、僕を殺す音がした。