読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

生的過干渉

僕の劣情、散文、君への過干渉。

蛇目 #短編小説 煌二

夕暮れの図書室で口付けた。

契約のような口付けだ。それも、初めから深い泥のような接吻。あっ、と驚いて、純情そうな顔をする女。「すいません、初めてで。痛く、なかったですか?」紳士的な気遣いも忘れない。何が初めてだ。初めてなんか、女中共や汚らしい学徒共にくれてやったわ。女が嫌いで、嫌いで嫌いで、粘膜が毒を浴びたように痺れる。この女の口内は毒の沼だ。ギトギトの油だ。ハッカ油を流し込んでやりたい。女はまだ初々しい顔をしている。なんて女だ。小汚い、気持ち悪い、吐き気がする。僕の家に帰ってはまた父上を跪かせ、僕の口内をなぞったその舌で、父上を洗脳するくせに。この接吻は僕の終末だ。何もかも終わりだ。こいつと結婚することも、こいつに従い生きる父上の傀儡になり、自分を殺すことも分かっている。だからこれは、最後の犯行だ。僕との初めてが、柔らかい口付けや檸檬の香料などではなく、一方的な蹂躙であるのは、僕からの些細な反旗だ。舌が自分の酸で溶けそう。また、女が、わらった。

関係者各位

僕はもう何も考えられません。

誰も受け入れるつもりもないし、誰かに受け入れられることだけをただ待つ雛鳥です。

20歳にして餌がないと駄々をこね泣き喚く巣の中の鳥です。

身体ばかりが大きくなって、いつしかここまで来てしまいました。

どうしてこうなった、というと、ただ僕が悪かったとしか言いようがありません。

そもそも、僕が現世にやってきたところから間違いなのです。

タイムマシンは故障中。

前世の罪は清算中。

つまらないことばかり覚えて、最低な感情を賞味して。

美味しいものだけ食べて生きていかせてください。

僕に与えて、僕を殺して、僕になって。

そうして愛してください。

 

晴れ

左手の中三本を火傷した。

親指と小指以外だ。

左手の戦闘力が著しく下がった。

ゴブリンにすらやられそうな勢いだ。

むしろ、宿屋の主人にタイマンで負けるレベルの雑魚っぷり。

ポットからお茶を入れるために給湯のボタンを押す、98℃の熱湯が左手にダイレクトアタックといった流れだ。

激痛と痺れに耐えながら、一言「あつっ」のみで乗り切った。

周りが「大丈夫ですか?」と聞いてくる中、「大丈夫です」の一言で済ませ、熱湯びたしになった机を自らのティッシュで綺麗に拭き取り着席する。

その間も手は必死に痛みを訴えてきた。

それらを全てスルーし、出てきた言葉は「あれ、なんか火傷したわ」だった。

真っ赤に腫れ上がる指。

とんでもない激痛に襲われ、無様に泣き喚いてしまいそう。

それでも無理やり笑ってみせる。

痛い時ですら、人に頼れない自分が情けなくなってきた。

何もかもが大丈夫じゃない。

500円の痛い出費を我慢し購入した冷えピタが、凶器のように痛みを増幅させる。

この世の何もかもを恨んでしまいたい。

金髪幼女、もしくはメンヘラ下僕に火傷部位を治るまで舐めさせたい。

すごい罪悪感の中バイト先にかけた電話。

明日のバイトを休んでもいいか、といった内容だ。

「明日バイト入ってませんよ」

最後だけ神。が僕を味方した。

コンクリート製

何もかけない

何も頭を動かせない

余計なことばかり考えてしまう

有意義なことも何も無い

静かだ、ただひたすらに静かの中にいたい

柔らかな人の肌、肉、感覚

全てを永遠に享受していたい

そのような立場につきたい

このまま生命つきたい

照合したい

前進を拒みたい

何も見たくない

与えられるだけ与えられて

そんな空想

やたらと甘い同棲の言葉の響き

家に誰かといる幸福

そんなものが欲しくて

ずっと欲しくて

そうだな

そういえばそうだったな

ずっと欲しかったな

そうだね、ずっと

認めたところで

あるのは壁の温度だけ

斑に散った赤い点

僕の腕の痣

火傷の腫れ

昔飲んだ大量の風邪薬

死にたいの言葉の履歴

羅列

文庫本

借りたままの「複合犯罪」

畳に敷いた布団

レースに柔軟剤

異国の香水

女の匂い

朝は来ない

僕はここで

僕が完成

君が来ないまま、

僕は完成

はっぴーえんど

長電話をするようになったのは、用事の延長でかけた一本の電話からだ。

なんだか酷く切るのが惜しくて、僕からつまらない話題をひたすらに振ったことを覚えている。

相手は同じ大学の彼女持ち。

スラリと伸びた手足が、生きるために最低限必要なほどの太さで折ってしまいそうになる。

白くて細い指でコントローラーをいじって欲しい。

赤い噛み跡を残してしまいたい。

そんな女が毎朝僕に電話をかけてくる。

「おはよう」

他愛もない話だ。

びっくりするほど中身はないし、遠距離恋愛の恋人のようなそんな会話内容だ。

それかもしくは親戚の妹。

だんだんこの女に彼氏がいることがわからなくなる。

そしてその度狙ったような彼氏の話題に思い知らされる。

僕は一体どこに向かっているんだろう。

もう何もわからない。

そんな中、またかかってくる。

僕を錯覚させるその音が止むことはない。

もう既に病んでいる。

僕はもう音が怖い。

全てを奪いそうな。

その女も僕の日常も、たった一つの正義も何もかも根こそぎ奪っていく女の一過性が。

本当に怖い。

死んでしまいたい。

その中に沈んでしまうくらいなら。

僕が僕でなくなるくらいなら。

何も手に入らないのならば。

たった一つすら思い通りにならないのであれば。

こうまでしてやっと大切なものを殺してしまう僕は。

どうして生きていなければならないのか。

生きておいて、そうやって堂々と酸素を吸って、吐いて。

わざとらしいくらい肺を膨らませて。

汚い体を、口を、思い通りに動かして。

一種のロマンスに。

長年の自殺願望に。

僕はこの劣情を重ね。

歩くはずだった式場を。

死んでしまった絶対神を。

僕から奪ったそんな僕を。

許しはしない、愛しもしない。

だから殺すしかない、死ぬしかない。

それ以外に解決法を知らない。

馬鹿の一つ覚えのように、息を止めて。

さあ今すぐ、息を止めて。

吸わず。

それだけ。

それだけをして。

さあ、早く。

今すぐ。

最後の自分の意思で。

自由意志で。

死ぬんだ。

僕よ。

今だ。

飛べ!!

きっと世界は

この世で一番甘いたべものは、同胞である人間だ。その肉はたちまちにヒトの体を駆け巡っては、気が狂う程の中毒性をもたらす。人間が減るのは何も珍しいことじゃない。減り方が共食いに変わっただけだ。異常なはずの世界の中で何とか世間は普通を保とうとしている。この欲求の意のままに誰も彼も等しく食事をしてしまうのに、最期まで体裁を取り繕うとするだなんて、何ともおいしい話だ。
人が人を食べるようになってからも、学校は開かれ、機関は動いているし、電車やバスは今日も何食わぬ顔で平常運転だ。この世界は明日もこれからも真っ赤に染まっていく。
朝のホームルーム中に早食いしているA君の机の上のブロック肉は、多分二つ隣の組の女だ。彼の食欲は並外れていて、僕の元彼女も担任の先生の右腕もペロリと胃袋の中だ。元彼女の名前も女の名前もちょっと忘れちゃったから、可愛くなかったに違いない。人がこんなに美味しいならもっと早く食べればよかったって、今朝のニュースのコメンテーターが笑うのにつられていつも笑わない父が笑ってた。
通学路に飛散する死体、腐ってたかる銀蠅。鼻が曲がるような異臭に少し興奮してしまう。追い越しざまに擦られた柔らかな体、血の詰まった肢体たち。口内の大量の涎が喉を大きく鳴らした。
『なんておいしそうなんだろう』
きっと僕の隣を横切る彼女たちも同じことを思っていることだろう。僕たちの頭を占めるのは食欲と口の中をざらりと残った甘味だけ。抑えきれない興奮と耐え難い渇きを癒すべくお弁当代わりに現地調達した女は、酷く母親に似ていた。

蛇目 #短編小説 煌一

図書室の姫君は今日も憂鬱そうである。元来、僕などが関わるべきではないほど深い闇を持つあのお嬢様は、今日も優雅に読書中だ。夕日が横顔にうっすらと映えていつにもなく悩ましげに見える。父上が毎晩誰かを抱いているのは知っている。それが、この姫君だということも。朝から晩まで、忙しくご苦労さまというものだ。こんなに物憂げに読書をしていても、父上を下僕のように従える汚れた女だというのを知っている僕からしたら吐きそうになる。あんなに綺麗な顔をして、父上を好きに操り、母上の精神を殺したこの罪悪、僕は許しはしない。家に帰れば心の死んだ母上。この女を崇拝し、汗や血で汚れた足を舐め、愛おしげに抱き潰す父上。甲高い嬌声に父上の謝罪、宗教文句のような低い声が父上と母上の寝所から響き渡る。浮かび上がるシルエット。台所で嘔吐を繰り返す母上。駆け寄る使用人。父上の嗚咽混じりの泣き声が繰り返される。

「貴方様だけが私の命でございます。ああ、今日も貴方様の思うがままに私に命令なされませ。さあ、愚かな私にご命令を。愚かな私にご命令を。ご命令を、愛を。アア。」