生的過干渉

僕の劣情、散文、君への過干渉。

居間

大事なものほど失いたくなくて

それがおかしいほど大事なことはわかっているのに

僕は存外不出来なもので

大切なものの存在を信じることが出来ない

赤を青だと言った僕が

赤を赤といってしまうのは

なんだかとっても味気なくつまらなく

こんな思考を停止してしまえば

どれだけ楽になるだろうか

そんなことを言ったとて

奪えないのが僕なのだけれど

ピンク

同じ大学の矢橋は入居者募集の看板を24時間365日掲げている大学前のアパートに住んでいる

バスを待っていると目の前に浮かぶどピンクのソレは、目の悪い僕でもハッキリとわかるくらいデカデカと『入居者募集』をアピールしている

頭のおかしいいかがわしい施設を想起させるそのピンク色の中に、矢橋は何食わぬ顔で住む

女を連れ込むこともなく、大学二回生になっても純潔を貫き、サークルにも入らず、何をするでもなく一人暮らしのピンクを消費して生きていた

噂によると、矢橋は友達すらもその家に呼んだことがないらしい

毎日目にするうちに、誰も知らないその中身にだんだん興味が湧いてきた

何人か同じ大学のやつが住んでるのも知っている

後はそいつらと接点を作り、辿ればいいだけだ

調べていくうちに、やつらの共通点が見えてきた

"誰も中に人を入れないこと"

恋人、友達、家族、誰1人、中に入れようとしないらしいのだ

矢橋だけをからかっていた僕の心にじわじわと黒い波が寄せてくる

これはもしかして、矢橋はとんでもないところに住んでいるんじゃないか、と

渦中の矢橋は相変わらず眠そうな顔で講義を受け、そそくさとアパートに帰ろうとする

ゆらり

僕の視界の端で矢橋が身体を不自然に揺らしたように見えた

ぐにゃり

関節がないかのように矢橋は横に揺れる

顔から血の気が引いていく

見てはいけないものを見たような

ぐるり、

矢橋の顔が180度回転したように見えた

「今日、俺んち来ないか」

泥のように眠りたい

働きたくもない

本能のまま

ただ気持ちよさを享受したい

提出期限を見たりしない

誰かに囲われたい

誰にも囚われないことは酷く恐ろしく寂しいことだ

何かを信じたい

信じたくない

傷付くのも期待するのも痛い

怖い怖い脆い弱い

我儘で横暴な僕を

身勝手で許されたい僕を

都合のいい形で

とてもなんだか素敵な形で

そうやって思ってた矢先

飛んできたのは空虚と貧相

略奪と侵害

ああ、眠い

すごく眠い

早く僕を

ねむらせて

このまま

煮え

ろくに他者の痛みなど考えたこともなかった

僕はずっと僕だけを見ていたのか

どれだけ相手を傷つけてもそれは仕方のないことだと思っていた

僕なんかと関わるよりよっぽどいいと

僕自身好かれる方ではなかった

嫌われることの方が多かった

僕は僕のことだけを書いてきた

だからダメだったんだ

いつも周りを顧みず

自分の思い込みで相手の感情を決めつけた

誰も僕を好きじゃないと思い込んだ

今ですらそうだ

僕はもう酷く疲れてるんだ

利己的で妙に完璧主義で気持ちが悪い男

また自分のことを考えた

出来悪い

ひどく不出来だ

また君の優しさに僕の首は締められる

人に良くするのは僕が人を怖いからなんだ

優しさが怖いんだ

無償のものとかそういうものを信じられないんだ

それだけ人間不信で

怖くて怖くて寂しくて

恋愛も特にうまくできない

彼女がいても恋されても好かれても

何も信じられなくて

依存して嫌われて失うのが怖くて

僕を嫌いな妄想ばかりして

捨てられるようなことばかりをする

そういうゴミ屑だ

星屑は綺麗だからいい

僕はそんな価値もない

首につけたガラスのネックレスを首の重みで割る

頸動脈に傷がつく

取り返しのつかないヒビが入る

僕の日々に響く

ビクビクと身体が条件反射する

目が白くなる

口から泡が零れ落ちる

僕という一個体が死ぬ

終わりを告げる

それを夢見る

真夏の真夜中

損なはなし

親の金で一番くじを引く

バイト終わり21時

嘘をついて時間を早めた

ガチャを引く、ひたすらにガチャを引く、

いい賞が当たらない

ふと思い出すのは小学校の頃の運動会

父親がいない僕はただひたすらに惨めを晒した

母親とおばあちゃんが来てくれているのに、そばにいたくないと一人で逃げた

どうしようもないことばかりの世の中で

大事にしてくれるものをひたすらに傷つけた

好きな人を突き落とした

思い通りにならなければ壊した

どうやってもどうにも上手くいかなかった

偏差値の低い大学に入った

誰とも話も合わなかった

私立の大学で金がなかった

何度か本気でやめようかと思った

水も合わなかった

教師も合わなかった

誰も僕を見なければ僕も誰も見なかった

はじめは誰とも話さなかった

高校の時のヤツらの連絡先は卒業式の日に消した

元々仲のいい奴なんていなかった

そうやって通う場所が変わる度にリセットボタンを押してきた

当たり前のように何も残らなかった

大学でもそうだった

バイトでもそう

はじめは受け入れようと触れてきた女共も皆一様に僕を嫌った

吐き捨てた落とした踏みつけた憎んだ

そうして何も思わなくなった

僕は人の通過点であった

僕は誰とも上手くやれなかった

社会不適合者1級だった

長電話は割と好きだった

受話器を通せば声が聞こえた

少しひとりじゃない気がした

電話の向こうはやはり人間だった

少し感情が触れるとそれをぶつけた

ガンガンと何度もぶつけるうちに人は歪んだ

歪んだ僕を嫌になった

僕はまともな人間であった、そうであると思いたかった

僕は誰とも相容れなかった

だんだん好きの感情も分からなくなった

恋愛が分からなくなろうと恋愛から逃げられなかった

もがけばもがくほど人は僕を囲った

秀でた奴などいなかった

ただそばにいてくれればそれで良かった

寂しい時に僕の言うことを聞いて僕より何歩か先を行く少しズレた人が欲しかった

僕は理想に囚われすぎた

僕の頭は現実を追い越した

僕は何かを見失ったら

分からなくなった

人と話すのがあれだけ好きだったのにそれも何だかブレてきた

何が楽しいのかも何もわからなくなった

ただただ人に寄り添われたかった

肯定されたかった

愛されたかった

唯一でありたかった

だけど僕はそれに値するだけの人間じゃなかった

本当にただただ

それだけの話

公共

22時過ぎ、駅構内の女子トイレは香水で蒸れる

知らない男の煙と残り香

濃いめの口紅がやけにキツい

女の臭いがひしめく個室

一方的な話し声の結末

電話とレシート

財布にブランドバッグ

安い下着と生理用品

血生臭くて女臭い

甘いシャンプー

嘘のシャンプー

香水で作った香り

重ねてつけたブレスレット

男からの貰い物

元カレの指輪

知らない人

すれ違い、誰も振り返らない

個室が閉まる

鍵のかかる音がする

何も聞こえない

小さく喘ぐ

また女が死んだ

 

普通の中の普通が普通の僕を嘲笑っていようとしてもそうやってまた僕は自己弁護を繰り返すのかい

あああああああああああ
僕は僕を見ている
僕は唯ひたすらに僕を見ている!!
なのに向こう側から僕がまた僕を
その目の奥からまた僕が覗いている
僕が僕を見た先に僕が
鏡台が激しく歪む
ぽたぽたと何かを青い液体が頬を伝う
色が反転する
僕を見る僕が僕を笑う
僕の中の僕がまた僕を見ない
僕の僕と僕が僕を画策している
僕は僕は僕は
一体
僕は一体

誰でしょうか、この中身は